シン・つれづれ草

シンガポールに暮らし、感じたこと、思うこと、体験したことなどを綴ります

人類の歴史は疫病との戦いの歴史だ

コロナウィルスの脅威が顕在化するまで、私を含めた大部分の人は感染症パンデミックの可能性を過小評価していた、というよりそんなこと起きないでしょ、という根拠なき楽観の中にいた。しかしそれはやってきた。最近よく引き合いに出されるように、1918-1920年に起きたスペイン風邪以来、100年ぶりのパンデミックである。残念ながら100年経つとそれを物覚えがつく年齢に達して経験した人たちは既にいなくなっている。人は自分で経験していないことは実感が湧かないのだ。歴史を振り返ると人類がこれまでいかに疫病(感染症)に苦しめられてきたかが分かる。歴史という学問の意義の一つは(それだけとは思わないが)、過去に起こったことを教訓として現在に活かすことだと思うのだが、これまでの歴史教育というのは、こと過去の疫病の悪夢から学ぶということについては、残念ながら十分な役割を果たしていなかった。それは過去に起こったことで、現代では医療が発達しているから発生しないと皆思っていたわけだ。実際、これまでは「運よく」ある特定の地域での封じ込めで全世界的な流行には至らなかった。

日経の「疫病の文明論」という連載記事が興味深い。如何に過去人類が疫病を恐れていたか、それが絵画の形で残っている。特に14世紀のペストの流行は激烈だったらしい。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58400210T20C20A4BC8000/?n_cid=DSREA001

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ピーテル・ブリューゲル「死の勝利」

日本史も同様。この記事は奈良時代天然痘の猛威により、朝廷や貴族の要人が次々になくなり、遷都が繰り返されたことや奈良の大仏が建立されたことが記されている。(この記事興味深く、かつ読みやすく書かれているのだが、文春オンラインのサーバ能力がアクセスに耐えられないのか、ちっとも反応しないことがある)

https://bunshun.jp/articles/-/37341

過去人類が疫病に苦しめられ、時には屍が累々と築かれて人口を大きく減らしても、生き残った人達がそこから這い上がって繁栄してきたように、今回のコロナウィルスもいずれは克服され、また人類は活発に活動を始めることは間違いないだろう。しかし、スペイン風邪から100年後に今回のパンデミックが起きたように、また似たようなことは起こる。それはまた100年後かもしれないし、5年後かもしれない。しばらくは人類はそれに用心深く対処し、影響を小さめに抑えるだろう。しかし、多くの人々が恐怖をわすれ、油断をした頃に、また新たな感染症の脅威がやってくるのだと思う。

ビル・ゲイツはこのパンデミックのリスクを2015年にTED Talkで的確に予言し、対策を促していた。ビル・ゲイツがこんなことを言っている、というのは当時私も何らかの記事で読んだ記憶があるのだが、当時の感想は「ふーん。そうかもね。」という程度でまるで他人事だった。この先見性が彼をビジネスで大きく成功させたのだろうと思う。後から見れば「そりゃそうだよ、いつこんなことが起こってもおかしくないよね」と思うのだが、後からではなく、事が起こる前にそれを語れるのはすごい。

https://www.ted.com/talks/bill_gates_the_next_outbreak_we_re_not_ready?language=ja