シン・つれづれ草

シンガポールに暮らし、感じたこと、思うこと、体験したことなどを綴ります

シンガポールにおける報道

外国に住んでいるとどうしても「日本と比べて...」ということを考える。今日はシンガポールの報道について思うところを書いてみたい。

シンガポールで英語でのテレビニュースと言えば、CNA (Channel News Asia)。ニュース専門で、番組のつくりも3文字の略もCNNに似ているが、私が知る限り全くこの二つに関係はない。そしてCNAを放送している会社はMedia Corpという会社で一見民間の会社だが、その株式は、政府系の投資会社であるTemasek Holdingsが100%持っているので、事実上の国営といって差し支えない。それ以外もちろん中国語だったり、マレー語だったりでのニュース番組もあるようだが、これも基本Media Corpの番組。要するに事実上NHKニュースしかやってない。

そして新聞と言えば一般紙はThe Straits Times。他にもなくはないがないに等しい。日本での朝日vs読売的な路線の違いみたいなものは皆無。あと日経に相当する経済専門紙は Business Times。そしてこの二紙とも発行しているのは、Singapore Press Holdingsという会社で、これも政府系である。こちらも一見民営化しているように見えるのだが、株主はいずれも政府の影響力が大きい会社ばかり。書き始めると複雑なのでやめるが、政府系の会社が株を持ち合って実質的に国営化している。シンガポールの主要な大企業はこうやって迂回出資をする形での実質的な国営企業が多い。DBS銀行、Singtel(通信)、シンガポール航空などなど。この国は国がこうして経済を牛耳っており、いわゆる自由競争というのには程遠い。

話が、横にそれた。(司馬遼太郎風w)

要するにテレビも新聞も、この国ではメディアは国営なのである。従って、報道の自由なんてものは存在しない。こうしたメディアで政府批判はあり得ない。国境なき記者団の発表している世界の報道の自由度ランキングなるもので、シンガポールは180国中、158位となっている。ちなみに日本は66位、中国が下から4番目の176位、北朝鮮がやはり最下位の180位。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%A0%B1%E9%81%93%E8%87%AA%E7%94%B1%E5%BA%A6%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0

https://rsf.org/en/ranking_table

 

シンガポールでもサーキット・ブレーカーと呼ばれる事実上のロックダウン措置が行われており、国民、居住者は厳しい管理下に置かれているが、それに対する不満は少なくとも報道されない。先日の記事のとおり、日本のアベノマスクは散々な言われようだが、同じく再利用可能なマスクを国民、移民全員に配った政策に対する批判の報道などはない。パニックを避けるためであろうと思うが、過酷な医療現場の実態が報道されることもない。日本の厚生労働省に当たる政府機関 Minitry of Health のWebサイトに毎日感染者数などを含めたプレスリリースが載るのだが、CNAやStraits Timesの記事は、このMOHの発表のまさにコピペとしか言いようがない。

目下シンガポールでは外国人ブルーワーカーにおける感染爆発が起きており、これは政府の対策に落ち度があったとしか言いようないのだが(感染爆発が発生してからの措置は徹底しており、間違っていないとは思う)、これに対する批判の報道はもちろんない。

国民は総じて政府の対応に淡々と従い、大きな不満は感じていないようだ。まあ確かに何事も中途半端な日本の対応に比べるとまだよいとは思うのだが、客観的に見るとこれはこれで世論操作された結果だよなと思う。

とはいえ、シンガポール はこうした中央集権、一党独裁の管理社会の下、一部のエリートたちが国家を運営することで成功してきたのは紛れもない事実である。しかし、それが一旦間違えると修正が効かないのがこうした体制の弱点でもある。長い目で見たときにシンガポール が繁栄を継続できるか、それともやはり、"It has been said that democracy is the worst form of government except all the others that have been tried."というチャーチルの言葉が証明されるのだろうか。最近の日本やアメリカを見ているとそうとも言い切れないのが何とも複雑。